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往年のアマチュア無線機の修理~八重洲FT-620~ナメてはいけない(前編)

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YAESU FT-620 radio1ban

昭和の無線少年時代にあこがれた無線機 八重洲 FT-620

かつて、アマチュア無線(ハム、Ham)が”趣味の王様”と言われた時代があった。昭和40年代、昭和50年代の自分もご多分にもれず、中学3年生の時、やっとの思いで電話級アマチュア無線技士の免許を取り(今は2アマ)、電波とハンダの臭いにハマった。裕福な家ではなかったのでバイトをしては中古の無線機を買いあさり、お金が無くなっては売り飛ばし...の繰り返しだった。

現在、ヤ●オクなどで出品され結構な高値で売買されるのがこの時代の無線機である。
当時指をくわえるだけで手に入れなかった輩がとても多いのだろう。自分もその一人である。

この無線機は、当時の代表的な(現在でもそうだが)無線機メーカ八重洲無線の、50MHz帯SSBトランシーバ、FT-620である。前面パネルの大きな写真

50MHzバンドは、VHFの50.0~54.0MHzと周波数幅が4MHzもあり、ゆったり使える。下からCW、SSB、AM、FMと、まさに(電波形式が)オールモードで交信できる唯一のバンドである。
もうひとつ、この周波数帯は、”Eスポ”と呼ばれる、送信した電波が電離層に反射して思いがけない遠くまで飛ぶことがあり、うまくいけばオーストラリアなどの海外局とも交信が可能である。このようにとてもスリリングで、無線機やアンテナの自作実験もやりやすく、入門者にはとても人気の高いバンドだった。当時は..

とまあ、懐古はこのくらいにして、運良くこの無線機を手に入れた。相場より安くラッキーだった。状態はまあまあだ。電源は入り、パイロットランプは点灯するが受信は不可能。送信はマイクが無いので不明。スイッチ類は接触不良ギミ。各所にはサビが出ている。

そこで修理、レストアを行うことにした。

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↑FT-620の後面パネル
昔からだが私は無線機の”オシリ”が好きである。アンテナ端子や電源端子など、華やかな前面の”顔”に対して、こちらは機能本意で、無線機の機能を発揮するための裏方的役割がある。

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↑FT-620の上内部(ケースをはずした)

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↑高周波回路
・右側:受信(高周波増幅・周波数変換)
・左側:送信

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↑受信:高周波増幅回路のアップ
高周波コイルの間でソケットに刺さっている部品がデュアルゲートFET、3SK39。
高周波増幅の初段増幅
ちょっとサビが入っている
ソケットなのであとからいろいろ遊べそうだ。

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受信:周波数変換(混合)回路の3SK39

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↑本体下部にある受信IF・AF回路
XF-90AというSSB用クリスタル・フィルタが実装されている。AM用クリスタル・フィルタはオプションだ。

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↑SSBデモジュレータ(変復調)回路

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↑送信終段回路
終段トランジスタは、当時ポピュラーだった、2SC1306と2SC1307で10W出力。

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↑安定化電源ユニット
主要回路の直流13.8Vと、9Vをつくっている。

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↑第一局部発振回路
500KHzごとに64~66MHzの信号を発振する。前面のバンド切替スイッチで切り替える。
ここが今回の修理の中心となる。

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↑VFOユニット
シールドケースに厳重に収められている。メカ部は非常に精巧につくられている。5MHz台を500KHzの可変幅。

八重洲 FT-620 の修理開始

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↑本体下にある局発ユニットをチェックする。
これもシールドケースに収められている
2SC784の簡単な一石発振回路だ。
発振出力端子にオシロをつないでみたら案の定発振していない。

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それでは調整をと、発振コイルのコアを回そうとしたが回らない...?
いくら力を入れて回そうとしても回らない。力を入れすぎて調整棒をコワしてしまった。
仕方がないので、LC調整のCの方と、トリマで調整しようとしたら
「プチッ」...
あれ?

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↑トリマの絶縁部が割れてしまった。
あ~あ~もう...
自分のようにデリカシーの無い者がレトロな機器をさわるとロクなことが無いのだ...

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しかたが無いのでトリマを新品交換することにする。
手持ちの部品が無いのでヤ●オクと日本橋に行ったついでに買ってくることにする。
忘れないように、部品の配置図などの情報をメモっておく
長期戦だ。

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5個あったバンド局発水晶のうちNGと思われるのが2個。あとの3個はOKだ。
ただし、50.0~50.5、51.0~51.5、51.5~52.0MHzの3バンド。CW/SSBとFMモードの割当てのところ。
周波数カウンタでも発振が確認できる。
66MHzだからほぼ正確だ。

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↑正常な発振波形(66MHz)
オシロの帯域の関係で横が詰まっているがきれいな正弦波が出ているようだ。

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受信が可能なバンドで受信性能をチェックしてみる。
51.6MHz/AM40%変調/1KHz
最低出力信号を、SSGからアンテナ端子に入れてみた。

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驚いたことに信号が確認できた。
Sメータは振っていないが確かに1KHzの信号が耳で確認できる。
(↑の写真のSメータは違う信号の表示です)
FT-620は受信感度が悪いという定評があった。
自分も学生時代に同機を持っていた時があったが、感度をあげるため受信プリアンプを自作して組み込んだことがある。

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ここでカンタンな各部のクリーニングを行った。

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何年ぶり?かの電気を喰わせるため、24時間ほどエージングを行うことにする。
長時間通電は、電解コンデンサなどの部品性能を呼び戻す効果もある。
車と同じで無線機も定期的に通電(運転)し続けないと劣化や性能低下が早くなる。

修理・レストア風景

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歳をとると、このような細かい作業に虫眼鏡(ルーペ)や老眼鏡は欠かせない。
くやしいけれど...

長期戦に決定

手探りで修理をはじめたが、これからの作業にはどうしても回路図が欲しい。ネットで探し回ったら、同機の後継機であるFT-620Bの英文マニュアル(Instruction Manual 回路図付)は手に入ったが、後継機で改良されているらしく、かなりの回路変更があるようだ。
八重洲無線に電話で問い合わせたら直ぐに回答をくれた。在庫は無いが東京のサービス技術部門の手持ちでよければコピーサービスできるとのこと、直ぐに実費を送金して到着を待つことにする。
マニュアルとトリマーなどの保守部品が入ったら作業再開だ。
ソフトウェアの場合、理論的に”経年劣化”ということはない。不具合箇所があってもプログラム変更によりいつでも”完璧”になる。一方無線機やラジオには”劣化”、”故障”がつきものだ。ソフトウェアとは異なる技術的センスが必要だ。”手先の器用度”や”メカ機構”の知識も要求される。画面モニター上の”記号”をあやつるだけのソフトウェア技術者とは何かが違う。

続きは、局発回路の修理を行うことにする。

kazu

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