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方向探知機(方探)の修理~無線オタクの再発~

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無線オタクのはじまり...寝た子が起きた

 ヤフーのオークションを始めた2001年。(当時のヤフオクは無料だった)何気なしに落札したこのしろもの。こいつがきっかけで、かつての少年時代の無線オタクの病気が再発しようとは予想すらできなかった。この後、”方探”を探してヤフオクに止まらず、自己の英語力もかえりみず無謀にも”ebay”にまで進出する事態にまで発展した。

このしろものは、無線方位測定機(Direction Finder)という受信機である。
船舶が、長波のビーコン局や中波の放送などを受信しながら、本体上部にある大きな”ツマミ”をくるくる回してその電波の到来方位を測定し、自船の位置を確認する機械である。大きなツマミの中には大きなフェライコアにコイルが巻かれていてアンテナの役目を持つ。別にホイップアンテナもある。

事務所に来たお客さんのみんなが大きなツマミをくるくる回していく。

衛星航法やGPSなどが当たり前の現在、このようなレトロな機械を現役で使っている船舶は無いだろうが、当時はれっきとした航法装置で、大型船舶は法律で装備を義務づけられていたらしい。

入手したものは光電製作所の「KS-357」というかなり古い機種だった。

光電製作所(KODEN)は船舶のこうした方面では有名なメーカらしい。

“方探”のしくみ

 方向探知の理屈は単純で、フェライトコアアンテナの鋭い指向性を利用する。フェライトコアアンテナは、磁界型の電波を誘起する。この時、コイルの面に垂直、つまりフェライトコア(棒状)の方向(左の写真で矢印の方向)に鋭い指向性を示す。このときが最少感度となる。それが両方向に同じ指向性がある。

それに対し、90度の両方向にゆるやかな指向性の最大感度がある。(8の字特性)

この最少感度の鋭い指向性を利用して到来電波の方位を測定する。

両方向の指向性があるので正反対の方位がわからないので、もうひとつのアンテナであるホイップアンテナでも受信し、8の字の指向性を(ハート)型の指向性(カージオイド特性)にして方位を特定する。

感度はメータで確認する。
左方向が最少感度(←NULLの方向)
バッテリーメータと兼用
(前面パネルの右側)
手前のツマミがゲイン(受信利得)兼電源スイッチ
奥のツマミがボリウム
前面パネルの左側)
手前のツマミが同調用
奥のツマミがバンド切替スイッチ
B:(ビーコン)長波
BC:(ブロード・キャスト)中波
M:(マリン)(短波)
周波数のダイヤル
MC(メガサイクル)の表示。とてもレトロだ。年代を感じる。

鳴らない!!...

 これを積んで船に乗り込む趣味は自分にはない。でも周波数範囲からしてAMラジオのかわりにはなりそうだ。さっそく電源(DC9V)をつないで電源を入れた。
「ザ~~」というノイズはかすかに聞こえるが受信できない。
同調ツマミを注意深く回してみると放送局を受信している雰囲気はあるが音にならない。修理しよう。
そこで出品者にメールで「回路図はないか?」と聞いてみた。
回答は、「残念だが回路図は無い。」
「でも、基本的な回路だから、基板を見ながら回路図を起こしてみては?私なんか老眼鏡片手に時間をかけてやっている。楽しんで。」
とのことであった。
そのメールに、そういう楽しみ方もあるんだと痛く感激したのを覚えている。
 そこで本体をを開けてみた。長い間見ていなかった高周波回路である。コンピュータの面白くもなんとも無いボード類と異なり何か独特のソソるものがある。

修理

 ノイズが聞こえるということは低周波回路はOKのようだ。
トランジスタの足にドライバを当ててみると音が鳴る。
音声にならないが、放送局の周波数付近で確実に音が変化するから高周波回路もOKのようだ。
音量とゲインを上げていくと、音がひどくひずむ...ということは検波がおかしい?
基板をみると検波ダイオードがある。1N34Aというかなり古いゲルマダイオードだ。はずしてテスターを当てても導通がない。
以上の状況から見てゲルマダイオードを交換したら直るかもしれないということになった。
しかし、今時ゲルマダイオードなんて売っているのだろうか.....?
 仕事が忙しくしばらく放っておいた。
インターネットで「ゲルマダイオード」とか「1N34A」などで検索してみた。
すると、ゲルマダイオードや電子工作の記事を書いておられる個人のサイトを見つけた。そしてそこの方に事情説明とゲルマダイオードの入手先をメールで聞いてみた。
すぐに、手持ちの1N34Aを分けていただけることと、最近の日本橋も様変わりし寂しくなった(奈良在住の方でした)という返信メールをいただいた。ありがたい。
数日後、届いたダイオードと早速交換した。
(左の2本が取り外した不良ダイオード。右がいただいた新品の1N34A)
新しいダイオードに交換した後の検波回路
(2カ所交換)
 電源を入れて同調ツマミを合わせると、ものすごい大音量で放送が聞こえた。ビックリしたなあもう。ボリウムと利得調整のツマミを間違って回していた。
大型スピーカの出力は2Wもあり、充分な音量だ。
どのバンドも正常に受信できるようだ。
長波のビーコン局も受信できた。スゴイ!。信太(SK)、伊丹(OW)、大阪(RK)
大きなツマミをくるくる回すとスパっと指向性が効く。アマチュア無線では「サイドがきれる」と言ったようだ。
このするどい指向性は、パソコンなどノイズ源の多い室内で放送受信のノイズ対策に役立ちそうだ。
それにしてもこの受信機の感度の良いのにはとても驚いた。とても古い部品でつくられた受信機とは到底思えないほど高感度だ。中波帯にこんなに放送局があったかと思うほどぎっしり詰まっている。
利得調整(GAIN)ツマミを最大にすると、地元局などは飽和状態となりひずんでしまう。
スゴイ受信機だ...

修理完了後...

 この方向探知機の修理をきっかけにひんぱんにハンダゴテをもつことになった。この後、”方探”コレクション癖がついて現在6台ほど事務所に鎮座している。この方探(KS-357)はヤフオクで別の方に嫁入りをした。”方探”をはじめて知ったのは実は少し前で無線通信士の受験勉強の時である。レーダやロラン、デッカ、オメガとならんで、電波を利用した航法のしくみに非常に興味を持った。それがたまたま”自由市場”ヤフオクで”方探”を見つけ、興味が再来したのである。
出品者の方のアドバイスとゲルマダイオードを分けていただいた方、それに無線方位測定機の資料を下さった方、方探を安く手に入れるには”ebay”が良いとアドバイスをくれた方など、インターネットを通じて人とのふれあいの喜びを満喫した機会でもあった。
本業はソフトウェアだがこれをきっかけにハードの世界にも足を踏み入れることになった。プロのハードエンジニアにはとてもかなわないけれど、PICやPSoC、DSPなど、ハード=職人芸の世界にソフトウェアが入り込んで来たと実感する。若い頃先輩にハードがわかるソフトウェア技術者になれ、と言われたことを思い出す。

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