半世紀前に生まれたトランジスタラジオ
ラジオはアメリカ・ニューヨークから飛行機に乗ってやってきた。前オーナーが小さいときから大事に愛用してきたラジオのようだ。裏ブタにネーミングを入れている。汚れてはいるが状態は良さそうだ。どうもこのようなアンティークなレトロな古いラジオは、アメリカなど外国の方が質、量ともに程度が良いようだ。国内で入手するとガッカリする場合が多い。今回もアメリカ人のおいちゃんの良い人柄がうかがえる。ただし、不動品。鳴らない。
ラジオの仕様は以下の通り
・6石スーパートランジスタラジオ
・NEC MODEL NT-61
・535~1605KHz(AM中波放送のみ)
・トランジスタ・ダイオードの構成
MIX・OSC:ST-172、第一IF:ST-162、第2IF:ST-162、DET:1N34(?多分)
AF:ST-302、POWER:ST-302×2(プッシュプル)
・電源:006P乾電池(DC9V)
とにかくとても小さい。
カセットサイズのSONYのICF-SW1Sラジオよりもまだ小さい。
扁平型トランジスタST302
3個仲良く寄り添っている。低周波増幅と電力増幅に使用されている。廃品種。現在では入手絶望的。
裏ブタの裏に部品配置図が貼り付けられていた。
さっそく修理開始
裏ブタをはずした。基板の状態。
電池スナップが破れている。
バーアンテナと他の部品との間に紙を挟んでいる。前オーナが接触を心配たのだろう。
↑スピーカの金属部に粉が吹いている。心配したサビは無さそうだ。
スピーカとコンデンサの間にも紙を挟んでいる。かなり大切に使っていたのだろう。なんかうれしくなってきた。
↑基板裏の状態
レトロな部品が付いている
↑基板裏の状態2
スイッチ付きボリュームの状態は奇跡的に良い。ガリオームは無さそう。
とりあえず、劣化が予想される電解コンデンサを無条件に新品交換する。
写真の電解コンデンサ(黒い円筒形)はサイズが大きすぎてケースが閉まらなくなった為、後に小型サイズに変更した。
電池をつないで電源を入れるが鳴らない。
スピーカに耳を当ててみてもノイズも聞こえない。やはりトランジスタがイカれているか?...
スイッチを入れた時、「ポッ」とかすかに音が聞こえる。
オーディオ信号発振器で1KHzの低周波信号をスピーカに入れて見る。ピャ~と鳴った。
低周波増幅トランジスタ(扁平型ST-302)に信号を入れる。大きくピャ~と鳴った。トランジスタは生きている。良かった。同型番のトランジスタの入手は絶望的なので手持ちのゲルマTrで代換するしかない、と思っていたが助かった。ラッキー!
検波のあたりに信号を入れながらボリュームを回すと音が変化する。正常だ。
SSGの信号に切り替える。信号は455KHz/1KHz/70%AM変調。
IF回路のあっちこっちに信号を入れる。信号ラインのパターンに信号を入れると元気よくピャ~~と鳴る。正常。
周波数変換・局発トランジスタのあたりに信号を入れる。ピャ~と鳴る。正常。
トランジスタの管に当ててみる。ピャ~と鳴った。へえ~、管も入力端子になるんか??
とそのとき、突然「ジャ~~~」と大きなノイズが鳴りだした。ここだ!!
トランジスタの管を手で押すとノイズが鳴り、手を離すと鳴らない。
接触不良かあ..
結局、周波数変換・局発用トランジスタ(ST-172)のコレクタ(出力側)のハンダ割れだった。
(↑写真の赤矢印)
電解コンデンサを交換しているときは気が付かなかった。十分にハンダを流し込んで修理完了。ピャ~ガア~、ギャ~やかましいほど元気良く鳴りだした。
基板のみで鳴らしながら、ケース、ツマミの洗浄をする。半世紀の汚れをキレイに流してやる。前オーナーも喜んでくれることでしょう。
安定して受信していることを確認したら、続いてIF段の調整を行う。
↑バリコンを一番低い周波数に回しておく(羽を入れきった状態)。
SSGで455KHz/1KHz/70%AM変調の信号を、初段に入れる。
スピーカ端子に、交流電圧計(バルボル
or
ミバルとも言う)をつないで、3つのIFTのコアを慎重に回して電圧の指示が最大になるように調整する。
この種類のラジオの受信感度は、中間周波増幅で決まるのできっちり調整が必要だ。 ところがこのラジオは最良点からズレてなかった。優秀だ。
↑このラジオのIFT(中間周波トランス)。
珍しい丸型トランス。調整部のコアもしっかりしている。ロウで固定されていたがハンダゴテで簡単に溶けた。
IFTのコアを割ってしまってトホホの経験が多いが、このようなしっかりしたIFTだったら安心して調整できる。
最低周波数535KHzと最高周波数1600KHzのSSG信号が、それぞれバリコンの両端で受信できたのでトラッキング調整はヤメにした。
↑最新のラジオと”鳴き合わせ”中
半世紀前のラジオとは思えないくらい良い音だ。それにビックリするほど感度が良い。スゴイ!
オンボロオシロで低周波出力波形を見てみる。
例によって波形表示がリアルな音声について行ってないが、キレイな波形だ。ひずみも無い。
↑基板を元のケースに収めた。
このとき交換した電解コンデンサが大きすぎたのでミニサイズのに交換した。
↑交換した部品
ほとんどがコンデンサ類
修理完了!!
今回の修理で気づいたことは、この時代のトランジスタはとても「静か」ということである。最初「フン」とも「スン」とも鳴らないと思っていたが、そうではなかった。普通スーパーヘテロダイン方式のラジオは、信号が無くても「サー」とか「ざー」とか何らかのノイズが聞こえると思っていた。もっとも周波数変換、局発回路が動いてなければそのようなノイズも無いのか?
ミスも1点あった。局発回りのコンデンサを交換したとき種類を間違えた。普通のセラコンにしてしまった為、寒い朝にラジオとストーブをつけると、時間とともにわずかに「fズレ」を起こす。そのうち直そう。
ではなくて、冬期の温度変化でバリコンの容量が変化(ズレ)するのか?電池の電圧低下によって周波数がズレるのかどちらかのようだ。このラジオにはパディング・コンデンサは無い。だからバリコン(C)か局発コイル?ということになるのだが...
とにかくこのラジオは感度が良い。もちろんこのクラスにしてはの話だが。当時の技術でこれだけコンパクトでしかも優秀なラジオを作ったのはスゴイことだ。NECは知らない会社では無いのでちょこっと見直した。(kazu)
元気に鳴っているレトロ(昭和32年)6石トランジスタラジオ NEC NT-61 |