音の悪さを探ってみる
感度はまぁまぁだけど、音が汚いラジオ、前回は波形が汚い事まで突き止めた。
その汚さと言ったら、坂口杏里並で、意図的に歪ませた以外であんなのは初めて見たぞって感じだった。
調整でどうにかなるのかな
波形の歪みかたからすると、出力段のバイアスポイントが適切でなくて、クロスオーバー歪みがある様に見える(緑の波形、真ん中辺が不自然に曲がってるでしょ)。
それに、出力を絞っても波形の頭が潰れてる様にも見えるんだよね。波形の頭が潰れるって事はベース電流流しすぎの可能性もあるのだけど、クロスオーバー歪みが出てるって事はバイアスが足りないって事だし、矛盾するんだよなぁ(謎)。
とりあえずバイアスを弄ってみる
出力段のバイアスは、R12(2.2kΩ)を経由して、D2の順方向電圧(vfと呼ばれる)で決定されています。よって、R12を可変するか、D2とGndの間に抵抗を入れてバイアス電圧を嵩上げするかの二択になります。
現状ではバイアスが不足してるっぽいので、R12を小さい値にする方向になります。
但し、R12→D2→Gndに流れる電流も増加しますので、回路全体から見ると無駄な電流が増える事になります。
D2とGnd間に抵抗を入れる方法は、無駄な電流を増やさずにバイアスの嵩上げが、その方向でやってみたいと思います。
※ここにダイオードを使う理由は、簡単にバイアス電圧を得られるのと、トランジスタの温度補償を兼ねています。D2→Gnd間に抵抗を入れる手法は温度補償が弱くなる事に注意してください。
どんな風にやるのさ
まずは、どんな値の抵抗を入れるか考えます。R12は2.2kΩで、D2はシリコンダイオードなので、vfは0.6V~0.7V程度です。ってことは、3.7mAの電流が流れると計算されます。
[計算式、、、な:(9V-0.7V)÷2200Ω]
D2→Gnd間に100Ω入れると、3.6mAになります
[計算式、、、な:(9V-0.7V)÷2200Ω+100Ω]
100Ωを入れた事でバイアス電圧は、0.36V嵩上げされる計算になります。
厳密にはベース電流としてトランジスタに流れるので、そこまでなりませんけど。
大まかな計算が出来たので、D2→Gnd間には、100Ωの可変抵抗を入れて、値を可変しながら波形を観測してみたいと思っています。
※可変抵抗は0Ωになっている状態が元と同じ状態なので、必ず0Ω方向になってる状態から開始します。でないと、思わぬ大電流が流れて、抵抗が燃えたり、トランジスタがパチンします。
改造するぞ(大したことないけど)
部品箱から100Ωの可変抵抗を探して来て、D2→Gnd間に入れるのですが。D2のリードを切っても良いし、Gnd側を浮かして可変抵抗を割り込ませてもOKです。今回は、Gnd側を浮かせました。可変抵抗は必ず0Ω方向にしておいてください。
ちょっと余談、、、な
オシロの測定チャネルを1chしか使わない場合は問題ないのだけど、複数ch使う場合って、プローブがどのchに接続されてるかわかりにくいんだよね。そこで、ch毎に識別マーカーを付けてやると、すぐに判別出来るので便利です。
プローブ側とオシロ側両方やっておく、オシロの波形の色に合わせる等の工夫をすれば使い勝手が向上します。
※帯域がGHzオーダーの数十万円以上するプローブには最初からマーカーが付いてるんだけどねぇ、ケチらないでよ、メーカーさん。
余談ついでに
プローブで信号を拾う時に、面倒だから、便利だからって、こんな風に部品の足に直接先端のクリップを引っ掛けて、信号拾ってませんか。
結構見かける光景なんだけど、ダメじゃないけどお勧めしません。理由は、プローブの重みが部品の足に加わって、変形や破損を招くからです。充分にスペースがあって、部品の足にストレスが掛からない事が確認出来れば大丈夫ですけど、ね。
トランジスタの足に直接引っ掛けて、うっかりベース <-> コレクタ間をショートさせたりすると、悲惨な事になりますし、、、ね。
D2に抵抗かます
プローブなんかの事で横道にそれましたが、
本題に戻ります。
D2→Gnd間に100Ωの可変抵抗を入れてみました。抵抗値を大きい方向に持って行くと、出力振幅が少し下がります。そして、波形も少し綺麗になって来るポイントがあります。
これでイイのか?(D2に抵抗かます)
波形からバイアスが足りないんだろうと判断して、バイアスを増やす方向で改造して、こんな波形になった訳ですが。初期状態より沢山のコレクタ電流を流す事になるし、温度補償も弱くなるし、本当にこれでイイのだろうか。
何か違う気がするんだよな。
D2→Gnd間は元に戻して、R12を増やす(バイアスを減らす)方向ってのはどうなんだろうか。
R12側の改造します
D2→Gnd間にやったのと同じ方法で、20kΩの可変抵抗を実装します。
何で20kΩかって?たまたま手持ちにこれがあったから、、、です。
本来なら10kΩ程度でイイかなって思うのだけど、まぁ、実験だしね。この場合は、D2→Gnd間の時みたくシビアじゃないので、開始するときの可変抵抗の位置はどこでもOKです、波形見ながら安心してグリグリできます。
で、どうなったか
0Ωのところから開始して抵抗値を増やしていくと、予想では盛大にクロスオーバー歪みが出ると思っていたのだけど。最大の20kΩにしてもそれほど歪まないんですね。なんだ、コレ。
最適と思われるところでこんな波形になり、かなり改善したと思われます。その時の可変抵抗の値は3kΩくらい、R12と合成すると5kΩ近辺です。
と、言う事は、ですね。バイアスを増やしても綺麗になる、減らしても綺麗になる。
いったい、どっちなんだよ?って状態な訳ですよ。
次に疑うのは・・・
うーむ、訳わからん、ま゛った゛ぐわ゛がん゛ね゛。
もしかして、トランスの不良(アンバランス)があるのかもと思って、巻き線の抵抗値を計測してみたのだけど。
T1:一次側390Ω、二次側78.5Ω/77.5Ω
T2:一次側17.3Ω/17.4Ω、二次側2.2Ω
と、それほど差はないし、不良でもなさそう。
※テスタによる直流抵抗の計測値です。厳密には交流を印加して、インピーダンスや変圧比を測定します。
もしかして、、、
もう、ま゛った゛ぐわ゛がん゛ね゛状態だったのだけど低周波段に使われてるトランジスタに眼が行ったですよ。2SC1815GRがドライバ段と出力段に使われてるのだけど。
出力段のトランジスタにバラツキがあると、波形歪みの原因になったりする訳で。
外してチェックしてみっか。
※2SC1815の場合、hFEによってランク分けされていて。
Oランク:70-140
Yランク:120-240
GRランク:200-400
BLランク:350-700
と区分されています。
外して実測してみると
波形からすると、ドライバ段は大丈夫っぽく、出力段で何かが起きてるっぽいので。出力段だけ取り外します。
中華製の安物チェッカーでチェックしてみると、hFEは283と出ました。
もう一個も288と出たので、問題無いレベルですし、GRランクなので200-400の間に入ってるので、このトランジスタは正常と判断出来ます。
※簡易チェッカーの罠
簡単に素子の判別とチェックが出来て、非常に便利なのですが、気をつけないといけない事があります。チェック時に流れる電流なんですね。
テスタやこの手の簡易チェッカーはコレクタ電流が1mA程度かそれ以下で測定した値を表示します。例えば、3A流して使いたいとか、500mA流して使いたいって場合は、この値が変わって来ます。小信号領域での値だって事を忘れないでください。
簡易チェッカーじゃ納得できねぇ
簡易チェッカーでは問題無い値と、バランスだったのに、あの波形歪みはなんなのさ、これじゃキレの悪いウンコみたいで非常にキモチ悪い。
、、、ので。
カーブトレーサを持ち出して来ましたよ。
これなら、任意のポイントで比較可能だし。
微妙に違うようで違わないんだ
訳わかんなくなってカーブトレーサまで出して来た訳ですが。
どっちも殆ど同じカーブを描いてくれやがりまして、コレクタ電流が10mA程度までは殆ど
差はないって結末になってしまった。
もっと電流流してやれ
コレクタ電流が10mA程度までは殆ど差はない結果だったのだけど。もっと電流流したらどうなる
のかな。最大100mAのレンジで測定してみると、Ib=0.5mAのライン(一番上、ね)で、若干差が
見えていますが、これが波形歪み直結するとは思えないんだよな。
もしかして、hFEランクが関係する
今までの結果から、バイアスが足りないような、それでいて、ベース電流流し過ぎのような現象
が見えている訳だけど。もっとhFEの低い奴に交換してみたらどうなるのだろう。hFEが高けれ
ばエライって信じてる信者も存在するらしいのだけど、最適な値ってのがあるのだけどね。
手持ちに2SC1815のOランクがあるので、簡易チェックすると、hFE = 123 と出た。もう一個も125と出たので、交換してみようか。
2SC1815-Oランクにしてみた
基板はゆったりしていて余裕があるのだけどランドとランドを錫メッキ線や半田吸い取り線で
配線してあるので、非常に作業しにくいのよ。面倒なので、裏側から半田付けしてしまいました
え゛~、ウソだぁ
どうせ変わりゃぁしないだろうと思っていたのだけど予想外に綺麗な波形が出てきたんですよ。
R12+可変抵抗でグリグリやってみたのだけど、R12だけの状態が一番綺麗な波形が出てきた。
最大出力も1.95Vまで出てるし。。。
hFEランクの違いでこうも違うのか、少々驚き。
理由を考えてみる
hFEランクをGRからOに変えただけで、あの汚い波形がウソの様に綺麗になった。
いったい、何が起きてるのか、考えてみた。
おそらく設計時にはOランクで設計していたのだろうと推測されるのと、バイアス用のD2のvf特性もOランクに適合した特性だったのだろう。OランクとGRランクでは、hFEの違いもあるけど、Vbe特性も微妙に違って来る訳で。GRランクが付いていた時は、D2のvf特性とトランジスタのVbe特性がマッチせずに、バイアスが不足気味だったのだろう。そこに信号が入って来るとhFEが大きいので、コレクタ電流が沢山流れて、波形の頭が潰れてしまったのではないだろうか。
最適な部品を使おう
GRランクのVbe特性とD2のvf特性がマッチせずに、波形に影響を与えていた模様で今回は本来設計されたであろうhFEのトランジスタで正常に戻った。
と、言う事は。GRランクにマッチしたD2を選んでやれば、トランジスタを交換せずにちゃんと動作した可能性も捨てきれない。
回路によってhFEの影響度は違うのだけど。
電流帰還バイアスになってる回路だとhFEの影響度は小さい。
固定バイアスや直流を増幅する用途では結構影響するので、交換する場合は回路の方式を見極めてやる事が大切になってくる。
今回のB級P-P回路は、負荷がトランスで動作的には固定バイアスに近い動きをしていると思われる(エミッタに安定抵抗が入っているので、ある程度の電流帰還は期待出来るけど、電圧増幅回路ほど強力には効かない)。
問題の原因になった2SC1815GRですが、最初から入っていたものなのか、bossが組み立てる時に良かれと思って交換したのか定かではないのですが。
最適化されていないと、こうなるって事例でした。
で、次は
あ、2SC1815-Oを使った周波数特性測って、、、
どうせトランス結合回路だから大して変わらないんじゃないかと思うのだけど。
(2017.09.01 ken)
正に、絵文字(^^;;; 汗です。ハイ...
前記事の私(kazu)のコメント、
「入っていたトランジスタは、2SC1815(OかYランク)が3本と、2SC1815-GRが3本(プッシュプル電力増幅)だった思います。悪ふざけで、高周波段を2SC2669-OというAMラジオ用途に換装しました。」
↑という悪ふざけによる気付かぬ災いを、4年経ってkenに、電子回路理論により明確に暴かれた格好のようです。正に絵文字(^^;;; の心境です。
アマチュア精神論者の私には「最適な部品を使おう」は最重要な格言です。
「2SC1815-GRが3本」は、元から入っていたのか、私が「アマチュア精神」で替えたのか、完全に忘却の彼方です。どうもすみません。
このプロジェクトは、キットメーカーや、他人様の考えや間違いを批判するものではありません。無線ラジオをこよなく愛する方々の為に「知ってて絶対有益な情報を惜しみなく提供する」のが唯一の目的です。